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FRBの金融政策の緩和転換を巡るファクターリターンの動向

本稿では、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ開始局面でのファクターリターンの動きについて、過去の事例を基にご説明します。

執筆者

Noah C. Rumpf
クオンツ・リサーチ・アナリスト

概要

  • MFSのファクターモデルは、利上げ政策の後に最初に利下げに転じるまでの前後両方の期間においてうまく機能してきました。
  • 歴史的に、最初の利下げ前の1年間では、株価モメンタム、バリュー(バリュエーション)、クオリティ、センチメントの各ファクターがプラスのリターンを上げています。
  • 最初の利下げの翌1年間ではバリューとセンチメントのファクターでリターンが低下する傾向があり、株価モメンタムとクオリティのリターンは利下げ前の1年間と同程度でした。

2024年も半ばに差し掛かる中で市場参加者のコンセンサスとなっているのは、2022年3月に始まった利上げ局面を経て米連邦準備制度理事会(FRB)が年内にフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を引き下げる公算が大きいという見方です。利下げの時期や程度は変わる可能性があるものの、過去の事例から利上げ局面を経てFRBが利下げを開始した際のファクターリターンについて理解しておくことは有益であると考えます。

本分析にはFF金利の誘導目標を用います。FRBによる利上げは、FF金利の誘導目標が少なくとも20ベーシスポイント(bp)上昇した時点と定義します。利下げは、同誘導目標が少なくとも20bp低下した時点と定義します。金利変更の正確なタイミングについてはやや曖昧な点があります。例えば、1980年代にFRBはマネーサプライ重視の姿勢を改め、金利の誘導目標を定める方針に転換しましたが、それ以前の期間については、誘導目標金利の微妙な変化を除外し、かつ25bp以上の変化のすべてをその期間の変化として取り込むために、20bpを閾値としました。そうすることで利上げ局面後に実施された最初の誘導目標金利の引き下げ時点をすべて特定しました。こうしたケースは20回あり、図表1のチャートでは赤い四角でマークするとともに、1995年以降の直近5回の利下げ実施日と利下げ前の金利を示しています。

この金利の枠組みを用いて、MFSの米国株定量分析モデルによるすべてのファクターを複合したリターンと、それを投資テーマに分類したバリュー、クオリティ、収益モメンタム、株価モメンタム、センチメントの各ファクターリターンを検証しました。図表2は、1994年末から2023年末までのファクターの平均リターンを示しています。直近5回利下げの前年と翌年の1年間のユニバース全体の月次平均リターンと、複合ファクター、および各ファクターの上位20%の銘柄群の同リターンを比較したものです。

図表の中央から右へ、利下げ後の複合ファクターリターンの推移を見ると、過去において、最初の利下げの翌3カ月間のリターンが比較的高く、そのリターンは主にバリュー、クオリティ、センチメントのファクターがドライバーとなっていることがわかります。より長い期間で比較すると、利下げ前と利下げ後のパフォーマンスがほぼ同じ水準になることもわかります。最初の利下げから1年後を見ると、複合ファクターのリターンは最初の利下げ前の1年間のリターンとほぼ同じで、共に株価モメンタム、クオリティ、センチメントから得られています。

最初の利下げの翌1年間の複合ファクターのリターンは、利下げ前1年間のリターンよりも平均してわずかに高い(0.41%に対して0.37%)ものの、各ファクターリターンは利下げ前1年間の方が全般的に高い傾向があります。これはやや直感に反する結果ですが、各ファクターのリターンが最初の利下げまでの1年間で振れ幅が大きくなるため、複合ファクターのリターンが低くなるという事実によって説明できます。この短期的な要因はセンチメントのパフォーマンスに反映され、利下げ後の寄与が低減する傾向に表れます。ただし、長期的に見ると、MFSのブレンデッド・リサーチ運用戦略全体におけるセンチメントのアルファ創出への寄与度はここで示すほど大きなものではありません。

より長期で見る

より長期の時間軸で検証するため、金利変動の枠組みは変えずに、MFS定量分析モデルに代えて、ファーマ-フレンチの3ファクターモデルの提唱者であるケネス・フレンチが構築したファクターモデルを利用した分析を試みました。この分析では1971年から2023年までの期間を対象とし、株価モメンタム、バリュエーション、収益クオリティを捉えるファクターについて、時価総額加重の市場リターンと時価総額上位10%の銘柄群のリターンを比較しました。

先の結果と同様、この分析でも利下げ後の数カ月間において、PBR、株式益利回り、キャッシュフロー利回りなど特定のバリュエーションファクターのリターンは、利下げ前の期間よりも高かったことが分かります。分析期間を長くすると、この差は小さくなり、景気敏感株や有利子負債比率の高い銘柄の見通しについて、当初は楽観的な見方があるものの、その後に反転することを示しています。

MFSの定量分析モデルとは異なり、フレンチの株価モメンタムファクターは、最初の利下げ後の期間で高いリターンを上げています。過去の分析結果では、フレンチのモメンタムファクターのこのパターンは、MFSの定量分析モデルでリターンを計測し始めた1994年より前の期間でより顕著に見られるだけでなく、過去の期間を通じて当てはまる一方、過去30年余りのMFSの株価モメンタムファクターには当てはまらないことがわかります。この違いは、使用したデータ期間とファクター構成の両方に起因するものと考えられます。

これらは投資家にとって何を意味するのか?

この結果に、投資家は、「FRBが数カ月以内に利下げを開始することが分かっている場合、最初の利下げが実施されるまでバリュー・ファクターへのエクスポージャーを減らすのが合理的ではないか」と思うかもしれません。

平均するとバリュー・ファクターは、最初の利下げ前の期間で平均リターンが低いことは事実ですが、具体的な期間によってばらつきがあります。例えば、2001年1月の最初の利下げ前の数カ月間では、バリュー・ファクターは堅調な傾向にありました。一方、2007年9月の最初の利下げ前の期間は、他のファクターと同じようなリターンでした。この調査結果は、金利サイクルの転換点前後に生じる可能性の高いファクターの動きを理解する上で非常に有用であり、ひいてはポートフォリオの短期的リターンに対する合理的な期待を設定するのに役立つと思われます。もっとも、ファクター・エクスポージャーをとるタイミングを決めるのに使えるほど有意とまでは必ずしも言えません。長期的視点を持つ投資家にとっては、各ファクターへの分散的かつ戦略的な資金配分を行う方が、魅力的なリターンを獲得する上でより有効であると考えます。

今後の展望

これからの1年間が予想通りに展開し、FRBが利下げを開始すれば、MFSのモデルは引き続きプラスのリターンを上げると考えています。利下げ前と後のリターン・ファクターが注目点です。バリューのファクターリターンは当初プラスになる可能性もありますが、最初の利下げから時間が経つにつれて低下していきます。株価モメンタムのファクターリターンは、最初の利下げ直後に低下し、その後は平均的な水準に戻る可能性があります。最初の利下げ後の1年間は、主に株価モメンタム、クオリティ、センチメントの各ファクターがモデルのリターンをけん引すると期待できることを、歴史は示しています。

ファクターの代表例:

モメンタム:利益予想の変化、9~12カ月間の株価モメンタム、1カ月間の株価反転

バリュエーション:調整後配当利回り、EV/EBITDA、株価有形純資産倍率、EV/無形資産、DCF公正価値

クオリティ:フリーキャッシュフロー・マージン、営業利益率、アクルーアル、営業負債レバレッジ、回転率

センチメント:自社株買い、空売り残高、レバレッジの変化、財務報告書の文言の変化 

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