2024年10月
高い基準が求められる低ボラティリティ・ベンチマーク
本稿では、広く利用されている低ボラティリティ運用インデックスのバイアス、制約条件、リバランスについて検証します。
James C. Fallon
ポートフォリオ・マネジャー
Molly O'Brien
クオンツ・リサーチ・
アソシエイト
ベンチマークは、投資家が運用マネジャーのパフォーマンスを判断する手段として現代の投資に欠かせないものになっています。いかなる株式ユニバースにも一定のルールを体系的に適用することは、わかりやすい方法です。このシンプルさの欠点は、意図的にも恣意的にも、ポートフォリオのエクスポージャーにバイアスが生じる可能性があることです。MSCI Minimum Volatility Indexシリーズを見ると、この良く知られたベンチマークでこうしたバイアスがどのように生じるのかが分かります。MSCI ACW Minimum Volatility Indexは、共分散行列を用いた一連の制約条件を満たし、ボラティリティを最小に抑制したポートフォリオを構築するため、親指数であるMSCI All Country World Index (ACWI)を最適化したものです。この手法はリスク要因に関する実践的なインプットに欠けることが多く、そのため共分散を最小にする目的関数の値に依存しすぎる場合があるとMFSは考えています。また、これらのパッシブ運用は過去のリスク動向にのみ依存しているため、市場のリスク動向が突然変化する可能性がある場合には、必ずしも理想的とはいえません。
例えば、MSCI ACW Minimum Volatility Indexは過去2年間、ACWI指数と比較して中国、香港、台湾を8.23%のオーバーウェイトとしていますが、この3国は大幅にアンダーパフォームしており、インデックス全体のパフォーマンスのマイナス要因になりました。そのため、適切に分散された低ボラティリティ戦略のパフォーマンスを正確に反映していない可能性があります。この3国の株式は近年、他の先進国大型株式との相関が低いことから、実際に重要とされる要素や強力なアルファ(超過収益)ドライバーを欠くにも関わらず、グローバル株式の最小分散構築プロセスで全体的な共分散を下げるために都合よく組み入れられた結果といえます。
MSCI AC World Minimum Volatility Index (MWMV) | MSCI All Country World Index (ACWI) | 分散度 | ||||
国 |
平均ウェイト |
トータルリターン |
平均ウェイト |
トータルリターン |
平均ウェイトの差 |
トータルリターンの差 |
中国 | 6.59% | 8.67% | 3.12% | -12.36% | 3.47% | 21.03% |
香港 | 1.99% | -22.17% | 0.64% | -19.08% | 1.35% | -3.09% |
台湾 | 5.04% | 11.10% | 1.64% | 21.38% | 3.41% | -10.28% |
合計 | 13.62% | -2.39% | 5.39% | -10.05% | 8.23% | 7.66% |
出所: Factset、2022年4月9日~2024年4月30日
注目すべきは、ボラティリティが低くなくても、市場との相関が低くポートフォリオ・リスクを軽減する可能性がある銘柄は、インデックスに組み入れることができるという点です。この場合、過去のデータに基づいた予想リスクを軽減するかもしれませんが、投資家が期待するボラティリティの低減は実現できるとは限りません。
また、インデックスのリバランスが厳密、且つ頻繁に行われない場合、投資家は市場のショックにさらされる可能性があります。MSCI ACW Minimum Volatility Indexのリバランスは6カ月に1度行われますが、その間にはさまざまな不確実性が市場を揺るがし、慎重な受託者が対応を迫られる可能性があります。
MFSの見解では、MSCI ACW Minimum Volatility Indexはその制約条件のために十分に分散されていません。この指数は、親指数の±5%以内にセクター・ウェイトを保つことが条件とされていますが1、過去10年間、エネルギー・セクター(および素材セクター)を除くほぼすべてのセクターのポジションが指数にマイナスの影響を与えています。
MSCI All Country Minimum Volatility Index | MSCI All Country World Index | アロケーション効果のリターン寄与度 | ||||
GICSセクター |
平均ウェイト |
トータルリターン |
平均ウェイト |
トータルリターン |
||
コミュニケーション・サービス | 10.97 | 38.44 | 8.45 | 121.12 | -0.42 | |
一般消費財・ サービス |
6.89 | 140.82 | 10.70 | 133.66 | 0.05 | |
生活必需品 | 14.29 | 93.99 | 8.52 | 77.28 | -2.94 | |
エネルギー | 1.59 | 10.88 | 5.70 | 39.63 | 6.65 | |
金融 | 15.02 | 136.48 | 18.01 | 100.34 | -1.83 | |
ヘルスケア | 15.06 | 162.49 | 11.85 | 134.12 | -1.76 | |
資本財・サービス | 10.28 | 126.78 | 10.53 | 124.60 | 0.25 | |
情報技術 | 9.66 | 172.60 | 15.30 | 457.85 | -13.95 | |
素材 | 3.72 | 83.91 | 4.88 | 74.61 | 2.04 | |
不動産 | 4.32 | 54.37 | 2.94 | 41.29 | 0.08 | |
公共事業 | 8.19 | 95.19 | 3.12 | 66.46 | -3.56 | |
(非該当) | 0.00 | 0.21 | 0.00 | 19.12 | -0.01 | |
合計 | 100.00 | 109.53 | 100.00 | 131.35 | -15.40 |
出所:Factset、2014年4月30日~2024年4月30日。アロケーション効果は、2つのインデックスを比較した際のセクター・ウェイトの差から生じるリターンの差を表します。
MSCI ACW Minimum Volatility Indexは、構築方法において地域別の制限は設けていません。これが、近年では欧州を大きくアンダーウェイトする一方、エマージング市場を大幅にオーバーウェイトするなど、過去には意図しないバイアスをもたらしました。
S&P Global Low Volatility Indexも過去のリスクに大きく依拠していますが、指数の構築手法は異なります。ただし、分散やアルファ・ドライバーに欠けるという不十分な点では同じです。この指数は、S&P Global Large/Midcapのユニバースの中で最もボラティリティの低い300銘柄を特定し、ボラティリティの低い順にウェイトを割り当てます2。MSCI ACW Minimum Volatility Indexと同様、S&P Global Low Volatility Indexには、MFSが妥当と考える国別の制限は設けられていません。台湾のウェイトは、親指数では2.01%であるのに対し、S&P Global Low Volatility Indexでは15.3%を占めており、上位構成銘柄の多くが台湾企業です。この指数は四半期ごとにリバランスされるものの、低ボラティリティ投資家が投資したいと考える安定した質の高い企業で構成されているわけではありません。
国/地域別内訳 | ||
国/地域別内訳 | 構成銘柄数 | インデックスのウェイト(%) |
米国 | 48 | 15.7 |
台湾 | 39 | 15.3 |
日本 | 45 | 13.9 |
カナダ | 33 | 10.1 |
オーストラリア | 18 | 5.8 |
マレーシア | 13 | 5.7 |
英国 | 12 | 4.0 |
シンガポール | 10 | 3.5 |
ドイツ | 9 | 2.8 |
タイ | 8 | 2.4 |
出所:S&P Global。2024年4月30日現在のデータ。
低ボラティリティ株式戦略は、絶対的なリスク水準を低く抑えながら、高いリスク調整後リターンを提供することを目指しています。上述したインデックスの課題を回避するために、ベンチマークとなる低ボラティリティの運用マネジャーを、時価総額加重市場インデックスと比較し、シャープレシオやアルファ、または戦略のダウンサイド・キャプチャー・レシオなどのリスク調整後パフォーマンス指標を用いて評価することが、よりシンプルで理解しやすい方法であるとMFSは考えています。これらのリスク調整後パフォーマンス指標はいずれも、低ボラティリティ運用マネジャーが、特に下落相場で意図したリターンをもたらしたか否かを判断するための適切なバロメーターになります。
MFSの低ボラティリティ・ポートフォリオは、MSCIACWorldMinimumVolatilityやS&PGlobalLowVolatilityindicesとは構築方法が大きく異なります。MFSの低ボラティリティへのアプローチは、ファンダメンタルズ・リサーチとクオンツ・リサーチを組み合わせて選定した主にボラティリティの低い銘柄への投資を通じて、資本の長期的な成長と、市場下落リスクへのエクスポージャー軽減を目指します。低ボラティリティ・ポートフォリオの構築にあたっては、銘柄のボラティリティだけでなく、ファンダメンタルズ・リサーチやクオンツ・リサーチを活用して、銘柄のバリュエーションが企業の成長性や収益性、関連リスクを適切に反映しているかどうかを判断します。MFSは、広範な世界の投資対象の中から、過去の時系列推移で最もボラティリティの高い銘柄の約40%以上を投資の検討対象から除外します。これにより、投資機会の幅を広げて分散効果のメリットを享受することができ、また、より幅広い銘柄をリサーチする余力が生まれます。低ボラティリティ投資は、上述したインデックスを上回ることを目的とするのではなく、時価総額加重インデックスを対象とするパッシブ投資よりも優れたリスク/リターン特性を提供することを目指しています。そのため、MFSの低ボラティリティ戦略は、パッシブ戦略のみとの比較に満足しているわけではありません。
巻末脚注
1 MSCI Minimum Volatility Indexes Methodology.
2 https://www.spglobal.com/spdji/en/indices/dividends-factors/sp-global-low-volatility-index/#overview – methodology pdf.
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