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インターナショナル大型バリュー株式-忘れられた資産クラス

本稿では、セクター配分に特徴があり、米国株式との相関が低いインターナショナル大型バリュー株式へ分散投資するメリットについてご説明します。

執筆者

Steven R. Gorham, CFA
ポートフォリオ・マネジャー 

David S. Shindler
ポートフォリオ・マネジャー 

Nicholas J. Paul, CFA
インスティテューショナル・
ポートフォリオ・マネジャー 

 

概要

  • インターナショナル株式(グローバル株式から米国を除いた地域を投資対象とする運用)のバリュースタイルに対する投資家の資産配分は歴史的な低水準にありますが、これは主に米国以外の株式への配分比率が低位にとどまっていることと、米国の株価指数において集中リスクが続いていることによるものです。
  • 米国株式の中でも特にテクノロジー関連のグロース株は10年以上にわたって人気を博してきましたが、歴史を見ると、株式市場のけん引役は米国株式とインターナショナル株式の間で相互に入れ替わっていることが分かります。同様に、グロース株が優位な時期もあればバリュー株が優位な時期もあり、実際、インターナショナル株式の市場では2022年初めの米利上げ開始以降、バリュー株がグロース株を大きくアウトパフォームしており、足元ではグロース株からバリュー株へのシフトが進行している可能性があります(図表1参照)。
  • 現在のマクロ経済環境(高インフレ、高金利、米ドル高)、米国バリュー株とインターナショナル・バリュー株のバリュエーション格差の拡大、および米国の株価指数における集中リスクは、インターナショナル・バリュー株が持続的にアウトパフォームしていた時期を思い起こさせます。
  • セクター構成や米国株式との相関の低さを考慮すると、分散投資のメリットを享受したい投資家にとってはインターナショナル大型バリュー株への配分が有効と考えます。

10年以上にわたり、投資家は金利とインフレ期待の低下を背景にデュレーションの長いグロース株を特に選好し、分散投資の長期的なメリットを軽視してきました。テクノロジー銘柄が多い米国株式市場を代表するベンチマークとしてS&P 500 Indexを見てみると、2024年11月までの15年間に年率14.2%のリターンを生み出しています。現在、S&P 500に占めるテクノロジー・セクターの構成比率は約30%に達しており、セクター・リターンは年率20.2%となっています。一方、MSCI EAFE Value Indexは、銀行、金属・鉱業、石油大手など市場の不人気銘柄の比率が高いため、リターンは4.5%にとどまっています。この期間に投資家の間ではグロース株中心の米国株式市場への資金配分が急増し、インターナショナル株式の中でも特に大型バリュー株が取り残される状況になりました(図表2参照)。

  

米国株式の中でも特にテクノロジー銘柄を巡る熱狂ぶりを見る限り、投資家はかつてインターナショナル・バリュー株が選好されていた時期が何度かあったことを忘れているようです。そのうちの1つでは、米ドルが10年前比で40%上昇し、S&P 500指数がEAFE Value Indexを年率7.2%アウトパフォームし、米国株式市場では飛ぶ鳥を落とす勢いのテクノロジー銘柄への集中が進んでいました。また、当時は米国10年債の利回りが5.25%、世界のインフレ率が3.4%であったなど、世界金融危機から約10年間続いたゼロインフレ・ゼロ金利の時代よりも現在の状況に近いと言えます。バリュエーションはというと、当時の米国株式の12カ月先予想PER(株価収益率)は24倍でした。これは、テクノロジー銘柄への集中度が高かった米国株式市場で割高感が非常に強まっていた時期の後のことです。もうお分かりですね。そう、これは2001年1月の話であり、現在のことではありません。次に何が起こったのかは誰もが知る通りです。つまり、米国のITバブル崩壊です。

2024年11月30日までの15年間で、米ドルは36%上昇し、S&P 500はEAFE Value Indexを年率で9.7%アウトパフォームしています。また、米国10年債の利回りは4.2%、世界のインフレ率は5.7%、米国株式の12カ月先予想PERは22倍となっています*。さらに、最後の「人工知能(AI)の冬」が終わってから20年が経ち、投資家は今や、なくてはならない存在に進化したAIの1つである大規模言語モデルに依存しきっています。ただし、生成AIを巡る投資家の熱狂の恩恵を受けている超大型テクノロジー企業のほとんどは優良企業であり、ITバブル期に破綻したPets.comやeToysとは比べらない点には留意が必要です。しかし、市場で大きな比率を占めるこれらテクノロジー企業の業績が株価に織り込まれている非常に高い期待を下回ったり、バリュエーションが低下した場合には、相対的に割安なインターナショナル株式に莫大な投資機会が生じる可能性があります。

こうした状況を踏まえ、ITバブル後に起きた状況に注目したいと思います。運用リターンを左右するのは過去10年間ではなく、この先10年間の投資環境です。2000年代を見ると、2001年3月から2007年12月までのMSCI EAFE Value Indexのリターンは年率10.9%でした。これは、同期間のS&P 500のリターンである4.1%の3倍に近い水準です。S&P 500のテクノロジー・セクターに限って見ると、同期間のリターンは0.35%とさらに低い水準にとどまっています。同期間にS&P 500のPERは31%低下し、米国株式市場のリターンが低下する大きな要因になりました。これは、企業収益と配当に全面的にけん引され、年率11%近いリターンを上げたインターナショナル・バリュー株の状況とは大きく異なっています。S&P 500とMSCI EAFE Value Indexの対象市場は構造が全く異なるため、ここでは、まず両指数の市場の構造を比較してみます。現在のMSCI EAFE Value IndexがS&P 500に比べて2標準偏差「割安」な水準にあることはもちろんですが、おそらく最も注目すべき相違点は、MSCI EAFE Value Indexは金融、素材、資本財、エネルギーといったデュレーションの短い景気敏感セクターの比率が高いため、テクノロジー・セクターの比率が高いS&P 500に比べてはるかに高い分散効果を提供するという点です(図表3aおよび3b参照)。もちろんテクノロジー銘柄には依然として有望な投資機会がありますが、将来の収益トレンドの恩恵を受ける位置づけにあるセクターや業種は広範囲にわたり、今後は分散投資が重要になるとMFSは考えます。

  

収益トレンドは多くのセクターに恩恵をもたらすだろう

現在と2000年代初頭の市場環境(インフレ率、金利、相対バリュエーション、集中リスク)に類似性があることは明らかですが、もっと重要なことがあるとMFSは考えます。それは、テクノロジーとAIが日常生活のますます重要な部分を占めるようになると予想される中、将来の投資トレンドは過去10年間のようにテクノロジー・セクターの比率が高い米国株式だけでなく、幅広いセクターや産業に恩恵をもたらすことが期待できるため、今後は分散投資による長期的なメリットがお客様のポートフォリオにおいてますます重要になるということです。

こうしたトレンドには、資本的支出の増加(テクノロジーに重点を置いた事業運営支出のみにとどまらない)、さらにはインフラの更新、エネルギーおよびエネルギー転換、防衛および国家安全保障、サプライチェーンのリショアリング(国内回帰)およびローカライゼーションへの支出の増加も含まれる可能性が高いと思われます。こうしたトレンドの恩恵を受けるのは多くの米国企業であると同時に、米国以外の企業にとっても追い風になると考えられます。確かに、米国は世界のテクノロジー分野で高いシェアを誇っていますが、幅広いセクターや産業の世界的な優良企業すべてがひとつの国・地域に存在すると考えるのは単純すぎるでしょう。さらに、高いインフレ率が予想以上に長期化した場合は、経済が長期の景気後退局面に陥らない限り、銀行が高金利の恩恵を受ける可能性があります。これは米国以外の銀行株に特に当てはまります。同資産クラスは欧州のソブリン金融危機以降、厳しい規制と純金利収入の減少への対応を迫られ、市場で敬遠されていましたが、リスクとレバレッジの削減や事業統合が劇的に進む中、現在は魅力的なバリュエーションで取引されており、多くの場合、株価が純資産価値を割り込む割安水準にあります。

分散投資 

上述したように2000年代と現在の景気循環に類似性があるというのは重要なポイントですが、それに囚われて、分散投資による長期的なメリットを追求するという大局的な視点を見失ってはいけません。米国株式は直近5年間EAFE Value Indexをアウトパフォームしており、その長さは過去40年間で最長となりました。実際に、最近の米国株式のインターナショナル株式市場に対するアウトパフォーム幅は過去に例がない水準に達しており、現在の米国株式の株価は(控えめに言っても)行き過ぎのように見えます(図表4参照)。そのため、いずれ現在の状況が反転する可能性は高く、そうなった場合、分散投資を行っている投資家はその恩恵を享受することができるでしょう。

インターナショナル・バリュー株に長期資産配分を取ることで、株式ポートフォリオにおいて米国株式との分散効果を高めることができます。歴史的に分散投資にメリットがあることは投資家にもよく知られていますが、現在、米国株式を保有している投資家にとって、インターナショナル株式の中でもバリュー株はコア株とグロース株を上回る高い分散効果が期待できる資産であり、その分散のレベルは、米国株式との相関の低さという観点から見て歴史的に最も高いか、それに近い水準にあります(図表5aおよび5b参照)。

  

結論 

状況が全く同じとまではいかないものの、現在と80年代初頭からの8年間との間にはいくつかの類似点があり、ともにインターナショナル・バリュー株が米国株式を大きくアウトパフォームしていました。インフレ率や金利、米ドル相場、バリュエーション格差、あるいは単に米国の株価指数における集中リスクの高まりを見ても、その類似性は際立っています。しかし、おそらくもっと重要なのは、分散投資がパフォーマンスにマイナスとなっていたゼロインフレ・ゼロ金利の世界から脱却した今、インターナショナル・バリュー株に資産を配分することで並外れた分散効果を享受し、今後数年にわたって価値あるリターンの獲得が期待できる、という点です。

 


考慮すべき重要なリスク:

特定の市場への投資は、市場、為替、経済、産業、政治、規制、地政学などの厳しい状況によりより高いリスクを伴い、値動きが大きくなる可能性があります。また、株式市場および個別銘柄投資は値動きが大きく、発行体・市場・経済・産業・政治・規制・地政学などの状況に応じて、またはこれらの状況に関する投資家の認識によって、大幅に価値が下落する可能性があります。

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