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Big Mac*:債券の投資機会-欧州クレジット、戦術的から戦略的な保有へ

本稿では、欧州投資適格社債が戦術的な観点のみならず、債券市場への戦略的な配分を検討する上でも魅力的な資産クラスであると考える理由をご説明します。

執筆者

Benoit Anne
マネージング・ディレクター
ストラテジー・アンド・インサイト・グループ

欧州投資適格社債は、戦術的な観点のみならず、債券市場への戦略的な配分を検討する上でも魅力的な資産クラスであると考えます。今後の市場環境ではマルチアセット・ポートフォリオのリスクを低減する必要性が高まる可能性があり、そのような状況下で欧州投資適格社債は特に米国投資適格社債と比較して高いディフェンシブ性を発揮する魅力的な資産になるとみられます。こうしたディフェンシブな特性に加え、欧州投資適格社債は魅力的な分散効果を提供し、長期に亘り優れたリスク調整後リターンを創出しています。

欧州投資適格社債を保有する戦術的根拠は依然として強い。ユーロ圏はグローバル債券投資のスイートスポットであると考えています。第1に、欧州中央銀行(ECB)は今後複数回にわたって利下げを実施する可能性が高いため、欧州では戦術的にデュレーションを長期化するのが賢明です。現在、市場が織り込むECBの今後1年間の利下げ幅は約100 bpですが、これを上回る利下げが行われ、それに伴って市場金利の低下が進む可能性が高いと思われます(図表1参照)。こうしたデュレーション長期化ポジションに有利な投資環境に加え、第2に、欧州クレジットのファンダメンタルズは同地域の困難な経済環境にもかかわらず依然として堅調であるという点があります。最後に、欧州投資適格社債は、特に他の国・地域の投資適格社債との相対価値ベースでバリュエーションが魅力的な水準にあるほか、健全な資金流入が見られるなど需給面でも強力な下支え要因がみられます。バリュエーション面について確認すると、現在、欧州投資適格社債のブレークイーブン・スプレッドは23 bpと、米国投資適格社債(12 bp)の約2倍となっています1

マルチアセット・ポートフォリオのリスクを低減する必要性。今後は、特に第2次トランプ政権が始動する中、政策の不確実性とマクロ経済の不安定性が高まることが予想され、グローバル市場は岐路に立たされる可能性があります。このことを踏まえると、債券への配分を増やすなどしてマルチアセット・ポートフォリオのリスク低減を図ることは理にかなっていると言えます。総合的に見て、現在、オールイン利回りが歴史的高水準にある債券は、リスク低減に役立つ魅力的な資産クラスとして優位にあると考えています。株式市場では引き続きリスク資産が幅広く買われていますが、現在の高いバリュエーションと、それが意味する長期的な株式リターンに懸念が高まっています。

欧州投資適格社債は、ディフェンシブ資産としての魅力的な特性を勘案すると、リスク低減に有効な資産クラスの1つとして注目される選択肢。第1に、欧州投資適格社債のトータルリターンのボラティリティは米国投資適格社債と比較して著しく低く、このことは欧州投資適格社債の方がリスクが低い傾向にあることを示唆しています。具体的には、過去10年間における欧州投資適格社債のトータルリターンのボラティリティは4.8%で、米国投資適格社債の7%を大きく下回っています。同様に、クレジット部分のリターン(すなわち、トータルリターンから金利部分のリターンを差し引いたもの)のボラティリティについても、欧州投資適格社債は比較的低いボラティリティを示しています。特に、年限10年の債券についてクレジット部分のリターンのボラティリティを比較すると、欧州投資適格社債が3.4%であるのに対し、米国投資適格社債は4.7%とかなり高い水準にあります。資産クラスのリスクを評価する指標は他にも多数あり、そうした代替的な指標を見ても、欧州投資適格社債は米国投資適格社債よりもディフェンシブ性の高い資産クラスとして際立っています。例えば、MFSの債券ポートフォリオ・マネジャーの間で一般的に使用されているリスク指標の1つにデュレーション・タイムズ・スプレッド(DTS)があります。図表2に示した通り、欧州投資適格社債のDTSは世界のクレジット市場の中で最も低く、米国投資適格社債を大きく下回っています。

第2に、クレジット・リスク1単位当たりのスプレッドを分析したところ、欧州投資適格社債が有利であることが示されました。平均格付けがA3/BAA1の場合、現在のスプレッドは102 bpとなり、格付調整後のスプレッドは14 bpとなります2。これは米国投資適格社債の1単位当たりの格付調整後スプレッドの11 bpを明らかに上回っています。つまり、投資家は欧州投資適格社債を保有することで、クレジット・リスク1単位当たりでよりそのリスクを埋め合わせることができます。

最後に、格付の格上げ・格下げ比率です。投資適格社債市場において完全にデフォルトする確率を分析することはあまり重要ではないと思われますが、格上げ・格下げ比率は考慮すべき重要な要素です。これを見ると、長期的な格下げ・格上げ比率(格下げ件数に対する格上げ件数の割合)は、米国よりも西欧諸国の方が高くなっており、欧州の方が格付が上昇傾向にあることが示されています3

欧州投資適格社債は米国投資適格社債に比べて分散効果が高い。分散効果の差が生じる第1の要因として、両指数のセクター構成の違いがあります(図表3参照)。特に、欧州投資適格社債指数は米国投資適格社債指数に比べて金融債の比率がかなり高く、これは金利上昇局面において魅力的な特徴と言えます。一方、事業債の比率は米国投資適格社債指数よりもかなり低くなっています。同様に、指数の設計上、投資対象国も米国に比べてかなり分散されています。例えば、欧州投資適格社債指数の国別構成比率の上位3カ国は、米国(21%)、フランス(20%)、ドイツ(14%)となっていますが、米国投資適格社債指数は米国(86%)、英国(4%)、カナダ(3%)と米国が大半を占めており、地理的集中リスクという点で大きな違いがあります4

第2に、欧州投資適格社債は米国投資適格社債に比べてグローバル株式との相関が著しく低いことも注目すべき点であり、これはリスク資産に対して一定の分散効果が期待できると同時に、ディフェンシブ性が高いことを示唆しています5。今後のグローバル株式における潜在的なリスクを考慮すると、この相関の低さは魅力的な特徴と言えます。

欧州クレジットは長期に亘り魅力的なリスク調整後リターンを創出。グローバル債券の過去のパフォーマンスを振り返ると、欧州投資適格社債はリスク調整後リターンの観点で最も魅力的な資産クラスの1つとして際立っています。実際に、1990年代後半以降、欧州投資適格社債を上回るボラティリティ調整後リターンを達成している資産クラスは米国のMBSのみです。この間の欧州投資適格社債のボラティリティに対するリターンは0.88であり、特にこのように長期で見たリターンが高水準にあることは注目に値すると考えます(図表4参照)。欧州投資適格社債がリスク調整後ベースで大きくアウトパフォームしているのは、歴史的に見てユーロ圏では米国よりも債券にとって有利なマクロ環境だったことが一因であると考えられます。加えて、米国クレジットの過去のパフォーマンスではボラティリティが高いという特徴がありますが、これはリターンの振れ幅が大きいことが幾分影響しています。

長期的に高い期待リターンを得るためには、投資開始時の利回りが重要。現在の欧州投資適格社債の利回りは魅力的な水準にあることから、期待リターンの見通しはかなり改善していると言えます。これは、投資開始時の利回りが現在のように高水準にあると、その後のリターンが高くなる傾向が強く見られるためです。例えば、投資開始時の利回りが3.39%の欧州投資適格社債の場合、投資開始時からの利回りの変動幅を30 bp以内と想定すると、その後の5年間の年率リターンの中央値は4.40%と魅力的な水準になると予想され、リターンのレンジは3.09%~5.88%となります(図表5参照)。

以上を踏まえ、欧州投資適格社債には、その魅力的な特徴と過去のリターンに反映される通り、エクスポージャーを高めるべき戦略的根拠があると考えます。

 

巻末脚注

*「Big Mac」(「ビッグなマクロ経済」 を意味します)は、世界の債券やマクロ経済環境に関するトピックを取り上げるグローバル債券レポートです。
1 Bloomberg。欧州投資適格社債=Bloomberg Pan-Euro Aggregate Corporate Index。米国投資適格社債=Bloomberg US Aggregate Source Corporate Index。ブレークイーブン・スプレッドは、デュレーションに対するオプション調整後スプレッドの比率として計算されています。2025年1月15日現在のデータ。 
2 出所:Moody’s。格付を「Aaa」が1、「Aa1」が2、「Aa2」が3のように数値化した上で算出した値です。
3 Bloomberg、S&P、Moody’s。格下げ対格上げ比率は、Moody’sとS&Pの両格付機関が米国と西欧諸国それぞれの投資適格債の格付の変化について、2015年~2024年までの年次データを使用して算出したものです。
4 出所:Bloomberg。欧州投資適格社債=Bloomberg Pan-Euro Aggregate Corporate Index。米国投資適格社債=Bloomberg US Aggregate Corporate Index。国別の構成比率。2025年1月15日現在のデータ。
5 出所:Bloomberg、MSCI。MSCI World Indexとの2年間の相関は欧州投資適格社債が66%、米国投資適格社債が85%です。2022年1月~2025年1月までの期間(2025年1月については1月15日までのデータ)の月次トータルリターンに基づきます。

 

出所:Bloomberg Index Services Limited. BLOOMBERG®は、Bloomberg Finance L.P.およびその関連会社(以下、総称して「ブルームバーグ」)の商標およびサービスマークです。BloombergまたはBloombergのライセンサーは、Bloomberg Indexのすべての所有権を有します。Bloombergは、本資料を承認もしくは保証するものではなく、本資料に記載された情報の正確性または完全性を保証するものでもありません。また、本資料から得られる結果について、明示または黙示を問わず一切の保証を行わず、法律で認められている最大限の範囲において、一切の責任を負わないものとします。

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