2024年03月
米国課税地方債がLDIポートフォリオ改善の鍵を握る
本稿では、同等の格付けを持つ社債に比べて年限が長く、低いデフォルト率を示し、利回りの高い米国課税地方債が、LDIポートフォリオを補完し強化できる可能性についてご説明します。
Michael Adams, CFA
インスティテューショナル・
ポートフォリオ・マネジャー
Jonathan Barry, FSA, CFA
マネージング・ディレクター
インベストメント・ソリューション・グループ
2021年末以降、確定給付型年金(DB)は金利の上昇に伴い年金債務が圧縮され、積立状況が改善したことから、運用状況が大きく変化しています。その結果、多くの年金基金では、過去10年以上にわたって80%から90%の範囲で推移していた積立水準が足元では100%を超えています。
積立水準の改善に伴い、多くの年金スポンサーは債券への配分を増やしたり、第三者の保険会社との間で年金リスク移転(PRT)取引を行うといったリスク回避の動きを加速させています。下の図表2に示す通り、PRTの取引量は2022年に過去最高を記録し、過去5年超の間のPRT市場の取引額は約2,000億米ドルに達しています。
DB基金の成熟度が高まり、加入者の高齢化が進む中、負債デュレーションは必然的に短期化しています。さらに、金利の上昇に伴い、一般的な年金基金の負債デュレーションは2021年末の水準から2~3年短期化されました1。積立状況の改善と負債デュレーションの短期化により、より多くの年金債務を現物債券でカバーすることが可能になるかもしれません。ほとんどのLDIポートフォリオは米国債と米国投資適格社債で構成されていますが、米国課税地方債といった他の資産クラスもLDI戦略において重要な役割を果たす可能性があると考えられます。
従来のLDIアプローチでは、米国債と米国投資適格社債を組み合わせて、年金債務に見合ったデュレーションと信用特性を持つポートフォリオが構築されています。そして多くの場合、現物債券で実現できる水準以上にデュレーションを長期化させたり、現物債券では容易にカバーできないデュレーション・ギャップを埋めるために、デリバティブが使用されています。
米国債は年限が豊富で長いデュレーションへの対応が可能ですが、一般的に年金の割引率よりも利回りが低いため、多くの場合、米国債よりも利回りの高い資産を組み入れる必要があります。一方、投資適格社債は市場規模の大きさ、ある程度の年限の幅広さに加え、米国債に比べて全般的に利回りが高いことから、魅力的と言えます。また、高格付け社債の利回りを基礎として決定される年金割引率との相関もあります。しかし、社債はデフォルト・リスクをもたらす可能性があるほか、通常は10年から20年のゾーンに対応する年限のものが少ないという問題もあります。これらの欠点は、資産と負債のミスマッチを引き起こす可能性があります。
米国課税地方債は、こうした社債の欠点のいくつかを解消する上で有効です。社債に比べて、米国課税地方債は、
図表3は、いくつかの点において米国課税地方債が社債と比べて有利であることを示したものです。おそらく最も魅力的なのは、米国課税地方債のデフォルト率が歴史的に低いという点です。これにより、年金基金は格付けが相対的に低い銘柄への配分を増やすことができ、デフォルト・リスクを高めることなく利回りをさらに押し上げることが可能になります。
格付別比率 | デフォルト率 | 利回り | ||||
|
米国課税 |
社債 |
米国課税 |
社債 |
米国課税 |
社債 |
AAA |
15.8% |
1.1% | 0.0% |
0.4% | 4.7% |
4.6% |
AA | 60.8% |
6.8% |
0.0% |
0.7% |
4.8% |
4.7% |
A |
20.6% |
45.2% |
0.1% |
1.4% |
5.1% |
5.0% |
BBB |
2.8% |
47.0% |
1.0% |
3.6% |
5.7% |
5.3% |
出所:Bloomberg、Moody's Investor Services。2024年1月31日現在の格付別比率と利回り。米国課税地方債のデフォルト率はMoody'sのパブリック・ファイナンス・レポート「US Municipal Bond Defaults and Recoveries」より。1970年12月31日から2022年12月31日までの年次データ。米国社債のデフォルト率はMoody'sのデフォルト率と格付けのデータベースより。1970年12月31日から2022年12月31日までの年次データ。注:四捨五入の関係で合計が合わないことがあります。
積立状況が改善するにつれて、年金スポンサーや保険会社は通常、金利変動リスクの回避(イミュニゼーション)を図る目的で資産全体のデュレーションと負債全体のデュレーションを一致させるだけでなく、イールドカーブのさまざまな年限の変動に対応するためにキー・レートごとにデュレーションを一致させようとします。しかし、社債は歴史的に見て、10年から20年のゾーンに対応する年限のものが少ないことから、多くの場合、望ましいキー・レート・デュレーションを確保するためにはデリバティブが必要になります。
図表4に示すように、米国課税地方債は、10年および20年の年限において社債や国債よりもキー・レート・デュレーションが著しく高いため、年金スポンサーが社債や国債を利用する際に直面することがあるキー・レート・デュレーションのギャップを埋めるのに役立つ可能性があります。これにより、より多くの負債を現物債券でカバーすることができることから、年金スポンサーはデリバティブへのエクスポージャーとそれに伴う流動性リスクとカウンターパーティ・リスクを低減できると同時に、デリバティブ取引に伴うガバナンスの監視を軽減することも可能になります。
上記の特徴は、米国課税地方債を組み入れるべき強力な根拠となりますが、この資産クラスの市場規模の大きさから、さらに魅力的な投資機会があると言えます。米国地方債市場は細分化されており、課税対象か非課税かにかわらず、指数に含まれない多数の発行体が存在します。米国課税地方債セクターには約84,000の銘柄があるものの、そのうち73,000を超える銘柄は、指数プロバイダーが構成銘柄の発行規模に制限を課していることから、指数に含まれていません。通常、これらの指数に含まれない銘柄は投資調査の対象となることが少なく、投資家の関心も低いことから、多くの場合、非効率性が高く、流動性リスクがやや高まることで利回りにプレミアムが上乗せされます。
また、A格およびBBB格の米国課税地方債へのエクスポージャーを増やすことで、年金スポンサーは社債よりも低いデフォルト率を有利に利用できる可能性があります。社債に格付けの下限を設定している年金基金は、デフォルト率が低いという特徴を考慮し、米国課税地方債については格付けの下限の引き上げを検討するかもしれません。そうすることで、信用リスクを犠牲にすることなく、利回りを向上させることができます。
また、図表3に示した利回りは米国課税地方債の指数に基づくものであることにも留意する必要があります。したがって、指数に含まれない銘柄も含めた場合、利回りはそれらよりも幾分高くなると考えるのが妥当と言えます。この利回りのプレミアムを得ることで、流動性がある程度犠牲になる可能性は高いと思われます。しかし、年金基金や保険会社などの長期投資家にとっては、歓迎すべき対価と考えます。
利回りが数年ぶりの高水準にあり、供給が増加し市場の規模が拡大していることから2、現在は年金スポンサーや保険会社がLDIポートフォリオにおいて米国課税地方債への配分を検討する好機と言えます。米国課税地方債は、社債と比べて格付けが高く、過去のデフォルト率が低い一方で利回りが高く、長期ゾーンに対応する年限の債券が多いなど、多数のメリットがあると考えられます。
幅広い発行体を活用したアクティブ運用は投資家の利益につながると考えています。アクティブ・マネジャーは複数のアルファ獲得手段を有しており、こうした手段の1つである非流動性プレミアムへのアクセスは、年金基金や保険会社といった長期保有の投資家にとって、十分に許容できるリスクであると考えます。
巻末脚注
1出所:FTSE Pension Discount Curve、2023年11月30日現在。「中期」の年金債務の割引率は2022年12月31日の2.74%から2023年11月30日には5.28%に上昇し、デュレーションは同期間に16.83年から13.41年に短期化されました。「短期」の年金債務の割引率は同期間に2.63%から5.26%に上昇し、デュレーションは13.42年から10.96年に短期化されました。
2 Bloomberg Municipal Index Taxable Bondsの規模は、2018年12月の3,130億米ドルから2023年12月には4,110億米ドルに拡大しました。米国課税地方債全体の市場規模は2023年12月現在で6,630億米ドルです。
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