
2025年03月
注目が高まる債券市場-大いなる二極化の年
本稿では、地域間で拡大する政策格差と、バリュエーションが高く不確実性が高まる中でのクレジット投資機会について、債券運用部門 共同最高投資責任者のPilar Gomez-Bravoがご説明します。
Pilar Gómez-Bravo, CFA
債券運用部門
共同最高投資責任者
(Co-CIO)
足元の債券市場を乗り切るためには、マクロ経済情勢とその影響要因について徹底的な分析を行うことが重要です。米国の政策の不確実性と足元で進行する地政学的緊張を受け世界の環境は困難を極めており、地域間で二極化が生じています。中央銀行は、データを見極めてから大きな動きに踏み切るなど、慎重な金融政策対応を行っています。関税、移民動向、規制緩和、財政政策、エネルギー政策などの要素が複雑に絡み合う状況下、こうした慎重なアプローチが重要です。
こうした環境下、債券市場で舵取りを行うためには戦略的なポートフォリオ運用が不可欠です。米国の財政赤字はホワイトハウスの政策運営上の大きな障害となっています。米国には世界の準備通貨という特権があるものの、市場の財政赤字への感応度が高まる転換点は存在します。米ドルの下落や長期利回りの上昇といった指標は、大幅な財政赤字に対する市場の耐性が低下していることを示唆している可能性があります。ただし、英国やフランスで起きたような大きなショックが近い将来起きるとは予想されていません。
債券市場における主な懸念要因の1つは貿易戦争の可能性ですが、現在の市場のバリュエーションには完全には織り込まれていません。このリスクは世界貿易と経済の安定性に深刻な影響を与える可能性があるため、投資家にとって重要な注目要素です。また、市場が特定の取引に集中しているため、流動性懸念が高まっています。足元の流動性は安定していますが、昨年の円キャリートレードのようにレバレッジの巻き戻しが起きれば、大幅な価格ギャップが生じ、投資家に不意打ちを与える可能性があります。景気後退のリスクはないというコンセンサスは米国内に生じている経済格差を見落としており、米国ではまだ一定の階層の人々がその格差に苦しんでいます。また、政策の不確実性は消費者や企業の心理に影響を及ぼす可能性があります。成長見通しへのもう1つのリスクは、政策が発表される順番です。順番によっては、マクロ経済に効果を及ぼす前に、米国が望まない景気減速に陥る可能性があるからです。
グローバル債券市場のバリュエーションは、課題と機会の両方を示唆しています。クレジット市場は全般的に割高ですが、金利には歪みがあり、その歪みが潜在的なバリューを提供しています。投資家はデュレーションの短い資産を選好していますが、クレジットへの投資意欲は、スプレッドが縮小しているにもかかわらず依然旺盛です。この環境を乗り切るには、より広範な市場で個別の投資機会を識別するボトムアップ・アプローチが適しています。忍耐強くかつ機敏な運用戦略で、クレジット市場におけるリスクとリターンの非対称性を念頭に置きつつ、歪みの生じている分野でバリューを見出すことが可能です。
割高なバリュエーションと市場の不確実性を勘案すると、投資適格債券、ハイイールド債券、エマージング市場、証券化商品などに戦略的にポジションを取り、慎重な銘柄選択を行うことが重要です。個別の歪みに注目し、クレジットとデュレーションの両方にグローバルにエクスポージャーを取るディフェンシブなポートフォリオを維持することで、現在の複雑な市場環境を乗り切り、長期的なバリューを生み出す潜在的な投資機会を活用することができます。情報に基づいた投資判断を行うには、財政政策、通貨の動き、経済成長のトレンドを監視することが不可欠です。慎重な分散投資と質の高いエクスポージャーに注力することは、この厳しい経済環境下でリスクを軽減し、ポートフォリオのパフォーマンスを向上させるのに役立ちます。
投資適格債
現在の低成長・低インフレのマクロ環境においては、よりディフェンシブでデフォルトリスクの低い投資適格債券が有利です。ただし、市場調整が起きた場合にスプレッドが拡大する可能性には注意が必要です。バリュエーションが高いにもかかわらず、投資適格債のキャリーは魅力的です。最近は欧州クレジットよりも米国クレジットを選好していますが、全体的には欧州をオーバーウェイトとしています。
ハイイールド債券
ハイイールド債券市場は取引が集中しているものの、特に短期ハイイールド債の個別銘柄レベルでまだ投資機会があります。需要に対して発行が限定的であることが当セクターの支援要因ですが、スプレッドが非常にタイトなため、アナリストが導き出す投資アイデアを主体とするボトムアップ・アプローチが欠かせません。
エマージング債券
エマージング市場にはさまざまな投資機会があります。一部の財政が強固な国は、米ドル高によるネガティブな市場センチメントにもかかわらず魅力的です。投資適格エマージング債券のスプレッドは相対的に魅力が劣るものの、クロスオーバー債に投資機会を見出しています。
証券化商品
証券化商品は、変動金利と様々なトランシェで得られるマージンが引き続き魅力です。リスクを軽減し、流動性を確保し、レラティブバリュー機会を活用するためには、モーゲージを含む証券化商品内での分散投資が必要です。
デュレーション
デュレーション管理も債券投資における重要な側面の1つですが、特に米国ではスタグフレーションのテールリスクが高まっており、複雑化しています。一部の中央銀行は不確実性に直面しているため、確信を持ってポジショニングすることは難しい状況です。中央銀行の政策がマクロ経済の実態より引き締め的な市場に焦点を当て、金利エクスポージャーをグローバルに分散させるアプローチが欠かせません。例えば、韓国やカナダなど、中央銀行が最近利下げを行った市場では、デュレーションに魅力的な機会があります。同様に、中央銀行がハト派的な姿勢を維持すると予想される欧州市場では、デュレーションをオーバーウェイトにする機会があります。鍵となるのは、各国のイールドカーブを組み合わせることで、利回りを確保しつつトータルリターンも獲得するポートフォリオの構築と言えます。また、純粋なデュレーション・エクスポージャーの代替として、イールドカーブのスティープ化トレードも検討しています。
今後の債券市場で最も魅力的な投資機会は、中央銀行の金融政策がまだ引き締め的で、かつ歪みが生じる可能性のある分野でしょう。投資にあたっては、取引の集中と潜在的な流動性の問題に伴うリスクを認識しておくことが賢明です。ポートフォリオ構築においては慎重で分散を重視したボトムアップ・アプローチが、現在の複雑な市場環境を乗り切る上で不可欠となるでしょう。トップダウンによる資産配分と強固なボトムアップの視点を組み合わせることで、債券市場における潜在的なバリューを捉えることが可能です。
債券に投資する場合、発行体、借り手、取引相手もしくはその他の支払義務を負う主体、原資産の信用力の低下、あるいは経済的状況、政治的状況、発行体固有の状況もしくはその他の状況の変化による結果として、またはその影響により、価値が低下することがあります。特定の種類の債券は、これらの要因による影響が大きいことから、ボラティリティが上昇する可能性があります。また、債券には金利リスクが伴います(金利が上昇すると、価格は下落します)。したがって、金利上昇時にはポートフォリオの価値が減少する可能性があります。
当レポートの中の意見は執筆者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではありません。