
2025年04月
関税と混乱:市場の安定化には何が必要か?
本稿では、最近発表された米国の関税に対する市場の反応について、MFSマーケット・インサイト・チームの見解をご紹介します。
MFS マーケット・
インサイト・チーム
先週米国が発表した関税措置を受け、世界の市場は調整に見舞われており、当面落ち着きの兆しは見られない
米国が4月2日に一連の関税措置を発表して以降、リスク資産の各種指数は大幅下落し、世界のほとんどの株式市場が10%前後下落しています。世界の市場がこのようなストレスとボラティリティに見舞われるのは2020年の新型コロナウイルスのパンデミック初期以来のことです。VIX指数で見た株式市場のボラティリティは50を超え、2020年4月以来の最高水準に急上昇しています。S&P 500の中で200日移動平均線を上回っている銘柄は23%のみで、これは世界金融危機やパンデミック時に匹敵する水準です。そのほかでは国債利回りが大幅に低下しており、安全資産への逃避傾向が顕著に表れています。米国10年債利回りは現在4%近辺で、4月2日以降約20ベーシスポイント(bp)低下しています。同様にドイツ10年国債利回りも同程度低下しています。一方、クレジット市場にはストレスの兆候が表れ始めています。ハイイールド債のスプレッドで特に顕著に見られ、4月2日以降、米国では約85 bp、欧州では60 bp拡大しています。通貨市場では、ディフェンシブな特性の円とスイスフランがここ数日間好調に推移しています。コモディティ市場では、世界的なリスク回避の影響を受けやすい原油価格が大幅に調整し、足元で60米ドル台前半まで下落しています。
多くの点でかなり異例の危機
まず、混乱の源は一国による裁量的な政策発表に起因しています。これは稀有なことで、最近の市場の歴史ではこのような事例は見られません。さらに、市場の反応もこれまでとは対照的で、米ドルはもはやディフェンシブな通貨とは認識されていません。世界市場の混乱の中心地が米国であることがその主な理由です。米国市場は他国市場をアンダーパフォームしているようですが、これも市場全体にわたるストレス局面下では珍しいことで、国債スプレッドはエマージング市場のほうが米国よりも高い耐性を示すなどしています。今後のマクロ・シナリオ分析については、比較可能な例がないため、潜在的な影響を評価することは複雑な作業になりますが、株式市場は債券市場よりも敏感に最悪のシナリオを織り込んでいるようです。実際、最近の株式市場の動きは景気後退リスクの高まりと一致していますが、債券市場ではこうした動きは見られません。例えば米国の投資適格債スプレッドが景気後退を示唆する水準は歴史的に200bp超とされていますが、現在はその水準まで90bp程度の余裕があります。
投資家は米国の景気後退、そしてそれが世界的な景気後退に波及することを懸念
多くの国を対象とした米国の関税実施は、長期にわたれば米国経済が景気後退に陥る可能性があります。米国の消費は堅調に推移してきましたが、関税の影響(実質的に消費税として機能する)が国内需要を大幅に抑制する可能性があります。さらに、政策の不確実性が高まる中で企業センチメントが悪化する可能性も高いでしょう。個人消費への潜在的な影響は数カ月の遅れを伴って顕在化するため、マクロ経済リスクを評価するには時間がかかります。企業が今四半期発表する決算は概ね参考にはならないでしょう。同様に、現在の不確実性を勘案し、企業は詳細な決算見通しを示すことは控えるものと思われます。
今後のグローバル市場環境の回復につながりうるシナリオはいくつかある
短期的には、交渉によって関税が引き下げられる可能性はあるものの、その見通しはほとんど立っていません。より重要なのは、米国の政策の焦点が、所得税減税や企業に有利な規制緩和措置など、より成長志向の措置にシフトする可能性があることです。こうした措置が早期に実施されれば、米国経済への影響は差し引きプラスとなり、景気後退の懸念を和らげる可能性があります。これは注視すべき重要なポイントです。
状況が落ち着くのを待ちつつ、マルチアセット・ポートフォリオのリスク軽減を検討するのが適切かもしれない
以上を踏まえると、今後はリスク軽減資産としての債券の魅力が高まると考えています。経済成長の下振れリスクと、世界の中央銀行が経済成長への影響を勘案して金融緩和ペースの加速を余儀なくされるという見方から、デュレーションをロングにする根拠はこの1週間でかなり強まりました。債券の中でも、低ベータ且つデュレーションの長い資産クラス、例えば証券化商品、地方債、高格付け債券などが、現在の混乱下ではより有利であると考えています。米国外の投資家は、米ドルの見通しが弱気であることから、通貨エクスポージャーについては慎重に検討する必要があります。株式については、米国株が明確な買い機会として特定されるまで、世界的な米国株離れの傾向が続くと予想されます。買いの好期はいずれ来るかもしれませんが、現時点ではそうは判断できかねます。現時点ではクオリティに重点を置いた銘柄選択を行うほか、低ベータ・セクターへのエクスポージャーも選好します。
当レポート内で提示された見解は、MFS ディストリビューション・ユニット傘下のMFS ストラテジー・アンド・インサイト・グループのものであり、 MFS のポートフォリオ・マネジャーおよびリサーチ・アナリストの見解と異なる場合があります。これらの見解は予告なく変更されることがあります。また、これらの見解は情報提供のみを目的としたもので、投資助言、銘柄推奨、あるいはMFS の代理としての取引意思の表明と解釈されるべきではありません。
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