
2025年02月
サステナブル要素を取り入れたバイ・アンド・メインテイン運用
本稿では、長期的視点の債券投資家の間で近年注目が高まっているバイ・アンド・メインテイン戦略について、確立された投資手法でありながらサステナビリティ要素を取り入れることで今なお進化している点をご紹介します。
Lior Jassur, DBA
債券ポートフォリオ・マネジャー
Owen Murfin, CFA
インスティテューショナル・
ポートフォリオ・マネジャー
近年、英国の年金基金を中心とする長期的視点の債券投資家の間でバイ・アンド・メインテイン戦略への注目が高まっています。今や周知のとおり、バイ・アンド・メインテイン戦略の特性は、長期投資ホライズン、低い売買回転率、信用毀損の回避、お客様固有の目的に合わせた慎重なポートフォリオ分散です。バイ・アンド・メインテインは確立された投資手法でありながら、サステナビリティ要素を取り入れることで、今なお進化しています。 |
近年、長期的視点の債券投資家の間でバイ・アンド・メインテイン戦略への注目が高まっています。バイ・アンド・メインテインは通常、広範な資産/負債リスク管理プログラムに統合されて機能します。プログラムの一環として年金基金や保険会社といった投資家のニーズに合わせたポートフォリオ構築を通じてカスタマイズされ、特定の利回り、キャッシュフローやデュレーション目標に合わせて調整することが可能です。この戦略の核となる特徴は、売買回転率の低さ、慎重な分散投資、信用の毀損の回避に重点を置いていることです。サステナビリティ目標を併せ持つ投資ポートフォリオの台頭はバイ・アンド・メインテインのフレームワークに適っており、長期の時間軸を必要とする点が共通の特徴であるといえます。ただし、信用格下げの潜在性やエクスポージャーの高集中といった主要な投資リスクを管理・監視する思慮深さが必要であると考えます。
気候変動への対応と低炭素経済への移行が急務とされる中、投資環境は変容しつつあります。特に英国の年金・保険業界のアセットオーナーにとって、投資戦略をネットゼロという野心的目標に整合させることは、以前は単なる考慮にすぎませんでしたが、投資制約や利害関係者からの圧力を主に反映し、今や必須要件へと変化している模様です。このように急速に進化するサステナビリティ環境下での舵取りは、機関投資家にとって手ごわい課題です。バイ・アンド・メインテイン運用戦略はこうした課題に応えるものとして、ベンチマークにとらわれず、デュレーションまたは満期、キャッシュフローを分配するか累積するかなど、お客様の特定の目標に合わせてカスタマイズしたソリューションを提供することができ、お客様ごとのリスク許容度、ESG目標、その他基準を適宜組み入れながら、安定したクオリティを維持し、投資適格未満への格下げリスクを最小限に抑え、元本の毀損を抑制し、売買回転率を最小限に抑えることが可能です。
バイ・アンド・メインテイン運用戦略のポートフォリオは、投資先企業が掲げているネットゼロ目標への進捗状況を追跡することで、気候変動などのシステミック・リスクに対応したり、ポートフォリオをお客様の目標に整合させつつ、長期的に一貫したリスク調整後リターンを提供することを目指します。
バイ・アンド・メインテインの長期的な時間軸と低い売買回転率は、脱炭素化や気候変動リスク・機会の検討といったサステナビリティ要件に自ずと整合すると我々は考えます。併せて企業との積極的なエンゲージメントを行うことで、その整合性はさらに強まります。この整合性により、MFSのバイ・アンド・メインテイン運用は投資家のサステナビリティへの取り組みに貢献する潜在性があります。
MFSは、責任ある資本配分を行うことにより、お客様に長期的な価値を創造することを目指しています。気候変動をシステマティックな投資リスクと捉え、温室効果ガス排出量ネットゼロの達成に向けた世界的な取り組みを支持しています。2030年までに対象運用資産(MFSの運用資産総額の約90%を占める上場株式と社債資産)をネットゼロ目標に整合させる、または整合に向けて進捗させるなど、2050年またはそれ以前に炭素排出量を実質ゼロにするという目標に沿った投資行動を行うことを誓約しています。資本配分やバランスシート運営に対する我々の意向を投資先企業に伝えるのと同じく、対象となる業界やセクターの投資先企業にエンゲージメントを行い、投資先企業の脱炭素化への取り組みや我々のポートフォリオにおける気候変動関連投資リスクの削減目標についての相互理解を深めることで、効果的かつ建設的にこの整合を達成することができると考えています。
さらに、ASCOR(各国の国債の気候変動リスク・機会へのパフォーマンスを分析するプロジェクト)などの業界イニシアチブと積極的に協働してサステナビリティ慣行の改善を目指すエンゲージメントに参加し、改善方法を模索しています。我々のバイ・アンド・メインテインのアプローチはこうしたイニシアチブに沿ったものであり、サステナビリティの成果に影響を与えるツールとしてエンゲージメントを重視しています。実際の排出量をターゲットとし、発行体レベルの動向に注目することで、より持続可能な未来の構築に積極的に貢献しつつ、一貫した長期投資リターンの実現を目指しています。
我々は、包括的なエクスクルージョン(投資除外)よりも、インテグレーションとエンゲージメントの力を信じています。そのため、企業ファンダメンタルズに環境・社会・ガバナンス(ESG)要素を融合して投資判断を下し、企業に影響を及ぼす方法としてエンゲージメントに特に注力しています。投資先企業と建設的なエンゲージメントを行うことで、発行体のリスク・リターン特性に影響を与えうる気候変動関連リスクも含め、バイ・アンド・メインテイン・ポートフォリオの全体的な財務リスクを評価し、管理することができると考えています。包括的なエクスクルージョンを避けることで、ポートフォリオの適切な分散と定められたパフォーマンス目標の追求に寄与することも重要な点です(Box1参照)。ESGへの考慮は、リサーチ・アナリストによる銘柄推奨や、投資時間軸の考慮にも大きく影響します。そのため、既定的なエクスクルージョンは避ける方向としつつ、特定の業種に関連する長期的リスクを意識しています。例えば移行リスクの大きい発行体に長期ポジションを維持することはありません。ほかに、カスタマイズしたマンデートにおけるお客様固有の運用ガイドライン要件にも対応しています。
MFSのグローバル・リサーチ・プラットフォームは、投資対象に含まれる主要市場の各地域に300名超の運用プロフェッショナルを配しています。このスケールメリットは、プラットフォームの多様な専門知識を活用して投資先企業の徹底的なリサーチを可能にし、投資先企業におけるESGのリスクと機会の管理促進に寄与します。MFSのアプローチでは、ESG要素の組み入れは独立したプロセスではなく、より広範なポートフォリオ監視プロセスに統合されています。リスクレビューを定期的に行い、社会やガバナンスを含む特定されたESG要因のマテリアリティを評価することで、サステナブル投資への包括的なアプローチを確実なものにしています。
Box 1: MFSのバイ・アンド・メインテイン運用における大手自動車メーカーとのエンゲージメント例 世界的な有名自動車メーカーとのエンゲージメントを例に、MFSの債券運用におけるESG要素とエンゲージメントのマテリアリティについての考え方をご紹介します。この例では、特に気候変動とガバナンスの問題についてのエンゲージメントについて取り上げます。 エンゲージメントの概要 サステナビリティ ガバナンス 気候変動 エンゲージメントの成果 結論 |
バイ・アンド・メインテイン志向のアセットオーナーの間で債券への長期投資需要が高まる中、特に強い自国バイアスを維持しようとすると、投資可能ユニバースの規模が問題となることが増えるかもしれません。英国など一部の国では、対象となる発行体の厚みが不足している可能性があります。そうした中でバイ・アンド・メインテイン戦略の投資対象ユニバースを拡大し、維持するためには、米国と汎欧州市場に重点を置きつつ、グローバルに投資先を分散することが必要と思われます。グローバル志向のアプローチには、異なる市場間の乖離や変調を捉える機会など、多くのメリットがあります。大企業の場合、複数の通貨や地域で債券を発行していることが多いため、同じ発行体でも、本国市場より他国市場で投資妙味がより高い場合もあります。為替ヘッジ行う場合、このアプローチであれば追加的な金利・為替リスクを回避することができます。この点を考慮すると、MFSのグローバルなクレジット・リサーチ・プラットフォームはバイ・アンド・メインテイン戦略に適した体制であると考えます。
国・地域やセクターの分散にとどまらず、投資対象証券をグローバル投資適格社債ユニバース外に拡大する機会も考えられます。投資家の嗜好によっては、クオリティとデュレーションの観点から、米国の課税地方債もグローバルなバイ・アンド・メインテイン・ポートフォリオの組入候補となり得るとみています。その他の選択肢としては、ハイイールド債やエマージング市場債への配分も考えられます。最終的にはお客様固有のニーズに合わせてカスタマイズすることが、バイ・アンド・メインテイン戦略の大きな柱です。
バイ・アンド・メインテイン戦略はベンチマークにとらわれない傾向があるため、ポートフォリオの真の分散を図る機会を投資家に提供できる可能性を有しています。セクター・アロケーションは、リターンだけでなくリスクも考慮するよう設計されており、ベンチマークに対するオーバーウェイト/アンダーウェイトではなく、リスクとリターンに基づきエクスポージャーを決定することが可能です。また、バイ・アンド・メインテイン戦略では銘柄選択の具体的なフレームワークが必要となります。発行体レベルのクレジット・リサーチに重点を置いており、このリサーチがポートフォリオの売買回転率の抑制に資すると考えています。発行体のファンダメンタル評価の長期的な可視性、景気循環リスクの低さ、外部イベント・リスクの低さ、提供する製品・サービスの多様性、サイクルを通じたキャッシュフローの創出、安定した且つ責任ある経営、持続可能な資本構造、自然な参入障壁を伴う強力な競争力、自社でコントロール可能なESG関連リスク、債務構造とコベナンツ(財務制限条項)によるプロテクション、良好な長期バリュエーション評価などを分析します。これらに基づき、発行体が特定の長期保有基準を満たせばバイ・アンド・メインテインの対象と見なす制度をグローバル・リサーチ・プロセスに導入しました(図表1)。
グローバル・クレジットの長期投資アプローチは、アクティブ銘柄選択を併せることでバリューを提供すると我々は考えます。実際、保有期間が長ければ長いほど、アセット・マネジャーがアクティブ運用を行う必要性は高くなると考えます。一見すると逆説的に思えるかもしれませんが、売買回転率の低いポートフォリオが長期的な運用目標の達成に効果を発揮するのは、強固なポートフォリオ構築、厳格なクレジット・リサーチ・プロセス、アクティブな市場調査による運用プロセスがあって可能になります。なぜならば、バイ・アンド・メインテイン運用では潜在的なクレジット・イベントを先見する必要があるからです。当投資アプローチは、ポートフォリオの回転率を低く抑えて信用リスク・プレミアムを捉えることを目指しています。信用リスク・プレミアムは長期で見るとかなり大きく、1997年以降で年平均90ベーシスポイントに上っています1。
通常、毀損のリスクが低い限り、価格変動の激しい局面や信用格付けの格下げ局面でもポジションを継続します。ただし、ファンダメンタルズに重大な悪化が生じたりデフォルト・リスクが高まった場合には、売却規律を主体的に遂行し、ポジションを解消します。回転率の低い運用スタイルであることから、ファンダメンタルズ分析に重点を置いた徹底的な銘柄選択プロセスが重要となります。アンコンストレインド・アプローチ、すなわち正式なベンチマークを持たない運用は、回転率の低さや保有期間の長さなどポートフォリオの安定性に資する傾向があることで、取引コストを最小限に抑え、クレジット・プレミアムをより多く捉えることができることが主なメリットです。
以上から、バイ・アンド・メインテイン戦略は投資家のサステナビリティ・ニーズに適した投資戦略であり、機関投資家の長期投資における戦略的資産配分において、今後ますます重要な役割を果たすと我々は予想します。
1 出所:Bloomberg、ICE BofA。グローバル社債インデックス。1997年12月~2024年9月までの月次データ。超過 リターンはトータルリターンと金利リターンの差異。前年同月比。単位はベーシスポイント。
MFSは、発行体との対話において、投資判断やファンダメンタルズ分析、エンゲージメントに環境、社会、ガバナンス(ESG)要因を組み入れる場合があります。当レポートでの記述や例は、MFSが一部の発行体の分析または発行体との対話において、ESG要因を組み込んだケースを例示したものですが、すべてまたは個別の状況における投資またはESG行動、エンゲージメントにおいて成果をもたらされることを保証するものではありません。エンゲージメントは通常、継続的かつ長期的な一連のコミュニケーションで構成されますが、これらのエンゲージメントが必ずしも発行体のESG関連の取り組みに変化をもたらすとは限りません。発行体の状況は様々な要因に基づいており、当レポートで示されているような投資やエンゲージメントの成果は、MFSの分析や活動とは無関係である可能性があります。MFSがESG要因を投資判断や投資分析、エンゲージメントにどの程度組み入れるかは、戦略、商品、資産クラスによって異なり、また、時間の経過とともに変化する可能性があり、通常、特定のESG要因の関連性と重要性に関するMFSの見解(投資家を含む第三者の判断や意見とは異なる場合があります)に基づいて決定されます。当レポートで示されている例は、いかなるポートフォリオの運用に用いられるESG要因をも代表するものではありません。MFSによるESG評価やESG要因の組み入れは、第三者(投資先企業やESGデータベンダーを含む)から入手したデータに依拠する場合があります。これらのデータは、不正確、不完全、一貫性がない、最新でない、または推定値である可能性があり、投資先やそのバリューチェーン全体のサステナビリティに関する特性や行動ではなく、特定のESG側面のみを考慮している可能性があるため、投資に関連するESG要因に関するMFSの分析に悪影響を及ぼす可能性があります。当レポートで示されている見解および個別銘柄を含む情報は、投資助言、銘柄推奨あるいはその他MFSのいずれかの運用商品のトレーディング意図を表明するものとして依拠すべきではありません。サステナブルな投資アプローチは必ずしも良好な結果を保証するものではありません。
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当レポート内で提示された見解は、MFSディストリビューション・ユニット傘下のMFSストラテジー・アンド・インサイト・グループのものであり、MFSのポートフォリオ・マネジャーおよびリサーチ・アナリストの見解と異なる場合があります。これらの見解は予告なく変更されることがあります。また、これらの見解は情報提供のみを目的としたもので、投資助言、銘柄推奨、あるいはMFSの代理としての取引意思の表明と解釈されるべきではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。
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