decorative
decorative


注目が高まる債券市場-選挙リスク下での利下げ

本稿では、米国選挙と中央銀行の金融緩和がグローバル債券市場とポートフォリオ・ポジションに及ぼす影響について、債券運用部門 共同最高投資責任者のPilar Gomez-Bravoがご説明します。

執筆者

Pilar Gomez-Bravo, CFA
債券運用部門
共同最高投資責任者
(Co-CIO)

概要

  • 米国選挙と地政学的リスクが引き続き不確実性の源であり、テールリスクです。
  • 中央銀行の金融緩和政策や力強いファンダメンタルズなど、マクロ環境見通しは債券市場に支援的です。
  • ポートフォリオ全体はディフェンシブなポジションとし、個別の投資機会を機動的に捉えてゆきます。

米国選挙が目前に迫る中、唯一確実に言えることは、不確実性が高まっているということです。選挙結果が市場を左右する状況にはありませんが、どちらの候補者が勝利するかによって市場への示唆は明らかに異なります。選挙結果が明らかになるまでは、財政・金融政策への影響、そしてそれが市場やマクロ経済見通しに及ぼす影響を憶測するにとどまります。 

カマラ・ハリス氏が勝利すればバイデン政権の政策を継続する可能性が高い一方、トランプ氏の2期目については未知数です。選挙結果が判明しても、結果が僅差であれば不透明感は続くでしょう。投資家にとって最大のリスクは、上下院ともに共和党が過半数議席を占めた場合、共和党が連邦準備法を改正できるようになるため、米連邦準備制度理事会(FRB)の独立性が脅かされることです。

選挙前後は市場のボラティリティが高まる可能性があることから、我々のポートフォリオはディフェンシブなポジションとしています。結果が判明すれば、エマージング市場、米ドル、デュレーション、イールドカーブ、株式エクスポージャーなどのポジショニングに動く機会が生じるものと考えます。 

calloutband

投資家にとって最大のリスクは上下院ともに共和党が 過半数議席を占めることです。

calloutband

地政学的情勢が引き続きテールリスク

地政学的リスクは、常に存在していながら、エスカレーションが起きるまでは過小評価されがちです。世界を見渡すと、地政学的エスカレーションが起こり得る地域は主に3つあります。1つ目はロシアとウクライナです。近い将来の解決の糸口が見られず、戦争は長期化するとの見方をしています。紛争地に近い欧州や近隣諸国にとっても引き続き重しとなるでしょう。2つ目は中東で、現時点で最大の地政学的リスクと言えます。主にイスラエル情勢のほか、イランに対するエスカレーションが懸念されており、油田や核施設が標的とされるおそれもあります。3つ目は中国です。足元では下火になっているものの、台湾を巡る地政学的リスクは依然として存在しています。こうした地政学的リスクは大きなテールリスクであり、特にインフレショックにつながりかねないため、インフレに対する保護効果のあるインフレ連動債や、米ドルのアンダーウェイトのカバーなどによるヘッジが検討に値します。

2025年のマクロ環境見通しは支援的

2024年も終わりに近づき、2025年の見通しへの関心が高まっています。マクロ経済の展望においては4つの要素を考えます。インフレの進展、成長の進展、金融政策、財政政策です。この4つを合わせると、マクロ環境はソフトランディングを示唆しているといえます。ただし、足元のバリュエーション水準を勘案すると、クオリティの高い、ディフェンシブな投資機会に妙味があると考えます。

インフレは大幅に緩和してはいるものの、リスクは依然残ります。インフレがここから大幅に上昇するような構造的要因は見られませんが、石油供給の寸断や貿易摩擦、自然災害などが生じれば物価の急騰につながりかねません。

経済成長見通しにおいては、労働市場への注目が高まっています。FRBが労働市場を注視していることから、我々は雇用データを注視しつつ、MFSのアナリストが行うリサーチで個別企業の情勢について把握し、今後のマクロ経済データと併せて検討していきます。

金融政策は世界的に連動する形で、先進国と一部のエマージング諸国の中央銀行が緩やかなペースで緩和しています。経済はまだ成長しており、インフレもディスインフレには至っていないことから、大幅な利下げは見込んでいません。そのため、金利の正常化は大半の国では緩やかに進むものとみています。一方、日本の金融政策は引き締めに向かっています。

財政については懐疑的です。財政赤字が生産性の向上につながるならば、インフレは抑制され、金利上昇懸念は薄れるでしょう。一方、財政の生産性が低いとインフレ上昇リスクが高まり、中央銀行の警戒感が高まります。米国選挙ではどちらの候補も財政赤字の削減は掲げておらず、両者の違いはどちらかといえば財政赤字の内容といえます。 

calloutband

市場の混乱時はアクティブ・ マネジャーにとってアルファ獲得の機会です。

calloutband

ポートフォリオのポジショニング

この先行き不透明感は、債券投資、特に投資対象ユニバースが広い債券投資への追い風となります。市場の混乱時はアクティブ・マネジャーにとってアルファ獲得の機会です。株価のばらつきが大きくボラティリティが高い市場局面では、ボトムアップによる銘柄選択が力を発揮します。選挙後には、そして経済が減速すると、勝者と敗者が浮き彫りになります。我々はトップダウンの観点から概してディフェンシブなポジションを取っています。クレジット市場についてはサイクルは減速局面にあるとの見方に基づいたアロケーションを取っています。ボラティリティと株価のばらつきが増大すると予想しており、市場機会が生じたときに動けるよう、流動性のある銘柄のエクスポージャーを高く維持しています。

投資適格債
クレジット市場は引き続きオーバーウェイトとしており、特に投資適格債が低成長・低インフレ環境の恩恵を受けるものとみています。企業のバランスシートは金利上昇局面においても堅調を維持し、大半の投資適格企業のファンダメンタルズは相対的に強固です。投資適格債のスプレッドは数年ぶりの狭い水準にあるものの、金利が高いことから利回りにまだ妙味があり、資金流入が続いています。バリュエーションは割高なものの、景気が減速と回復、または拡大の間を行き来するのではなく、減速から後退へ移行することを心配するようなファンダメンタルズの変化が生じない限り、スプレッドは長期にわたって狭い水準で推移する可能性があります。

投資適格債の中でも地域エクスポージャーには慎重です。欧州の利下げが続けば、欧州の不動産セクターに好機があるとみています。不動産セクターは金利の上昇局面では打撃を受けましたが、欧州中銀が利下げを進めれば追い風となります。金融セクターは、バリュエーションが縮小してきており、またスプレッド拡大のリスクが増大していることから、エクスポージャーを縮小しています。自動車など景気感応度の高いセクターはアンダーウェイトとしています。米国のクレジットカーブの長期部分はフラットであり、大きな利益獲得の可能性がみえないことから選好していません。インフレにリンクしたキャッシュフローを創出する実物資産を扱う資本財企業を選好しています。 

ハイイールド債
ハイイールド債は、債務返済に充てる短期キャッシュフローが見える短期デュレーション銘柄に取引が集中しています。利回りは魅力的で、ファンダメンタルズは前回のサイクルよりも良好であることから、引き続き注目すべき分野であると考えます。BB格銘柄はバリュエーションが割高とみていますが、デュレーションが短く利回りの高い個別銘柄に投資機会を見つけています。スプレッドが低いことからハイイールド債のエクスポージャーを縮小していますが、リスクを追加する機会を適宜追求しています。

calloutband

グローバル債券市場に 広く アロケーションを取る機会と します。

calloutband

エマージング債券
エマージング市場では、国際収支が黒字で、対外関係が良好であり、米国選挙の結果に関わらず経済改善の恩恵を受ける可能性が高いエマージング市場のハードカレンシー建てクロスオーバークレジットに投資機会があるとみています。ただし、選挙結果が判明するまでは、この資産クラスに対して自信を持つのは難しい状況です。トランプ政権が成立し追加関税が導入された場合、ボラティリティが増大する可能性があるためです。 

デュレーション
各中央銀行が足並みをそろえて利下げに動く中では、戦略的にデュレーションを長期とすることが最も有効であると考えます。緩和サイクルが始まれば、キャッシュや短期資産から長期ポジションに移行することが賢明です。歴史的に、債券市場の投資開始時の利回りが高ければ、中央銀行が利下げを継続し、インカムゲインと分散効果という伝統的なメリットを得られる限り、キャッシュよりも高いトータルリターンを期待できます。投資ユニバースがグローバルで、イールドカーブを選別できるのであれば特にそう言えるでしょう。MFSではデュレーションと国債のエクスポージャーを米国に限定せず、世界に分散しています。米国はオーバーウェイトとしていますが、オーバーウェイト幅は縮小しており、欧州、韓国、カナダなど、我々が利下げを期待しており且つ利下げが織り込まれていない市場にデュレーション・エクスポージャーをシフトしています。 

まとめ

リターンのばらつきやボラティリティが高まる局面では、グローバル債券市場に広くアロケーションを取る機会とします。また、MFSのグローバル且つ徹底したリサーチを通じたアクティブな銘柄選択と個別リスクが提供する複利効果も重視しています。地政学的テールリスクが継続していることを勘案し、低スプレッド、低ボラティリティを捉えて安価な方法でテールリスクをヘッジしています。こうした環境がエネルギーやコモディティ市場、世界貿易、サプライチェーンに重大な影響を及ぼしうることから、慎重且つ分散したアセット・アロケーションが適切であると考えます。

 

債券に投資する場合、発行体、借り手、取引相手もしくはその他の支払義務を負う主体、原資産の信用力の低下、あるいは経済的状況、政治的状況、発行体固有の状況もしくはその他の状況の変化による結果として、またはその影響により、価値が低下することがあります。特定の種類の債券は、これらの要因による影響が大きいことから、ボラティリティが上昇する可能性があります。また、債券には金利リスクが伴います(金利が上昇すると、価格は下落します)。したがって、金利上昇時にはポートフォリオの価値が減少する可能性があります。

当レポートの中の意見は執筆者個人のものであり、予告なく変更されることがあります。また意見は情報提供のみを目的としたもので、特定証券の購入、勧誘、投資助言を意図したものではありません。予想は将来の成果を保証するものではありません。過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではありません。

ご利用にあたっての注意事項

59921.1
close video