2024年09月
サステナビリティに対する構成主義的アプローチ
本稿では、スチュワードシップにおける構成主義的アプローチの概要と具体的な事例についてご説明します。
MFSは、責任ある資本配分を行うことで、お客様に長期的な価値をご提供することを目指しています。 そして、長期的な投資パフォーマンスの向上のために投資先企業や政府とエンゲージメントを行います。建設的なスチュワードシップ活動がこの目標の達成に資すると考えています。単にお客様の資産を運用するだけではなく、投資先企業について理解を深め、協働する姿勢で建設的なスチュワードシップ活動を行うことが長期的な価値の創造に寄与していくものと確信しています。こうした取り組みはファンダメンタルズリサーチの一環でもあり、結果として超過収益の源となると考えます。
資産運用業界では、スチュワードシップを重視するのは、アクティビストかパッシブ運用者のいずれかであるというのが一般的な認識となっているように思われますが、これには同意しかねます。スチュワードシップ活動を効果的に行うには様々な手法があるとMFSは考えます。オックスフォード大学の研究者によるスチュワードシップのアプローチの4つの形態(保守主義、日和見主義、構成主義、積極行動主義)に関する研究があります。この研究によれば、MFS®のスチュワードシップ活動は構成主義に該当します。
MFSの構成主義的アプローチの主な特徴と手法を以下にご紹介します。
特徴 |
手法 |
MFSの構成主義的アプローチは、エスカレーションに消極的ということではなく、投資先企業との信頼関係に基づいた定期的な対話こそが良い成果をもたらすという考え方です。
スチュワードシップ活動において、長期的かつ建設的なアプローチを通じて成果を得ることは、結果的にお客様に満足いただけるような価値をご提供するための最善の方法であると考えています。MFSでは、運用プロセスの一環としてのこうした取り組みがお客様の価値の創造につながると確信しています。今後も下記のようなアプローチを用いてスチュワードシップ活動を行ってまいります。
構成主義的なエンゲージメントの例
MFSが構成主義的なエンゲージメント手法を用いて、1)投資先企業のサプライチェーンにおける労働リスクへの理解を深めた事例、2)債券の発行体とサステナビリティ関連のトピックについて対話した事例、3)オイルサンド業界に関する高度な議論を促進した事例をご紹介します。
Samsungによる現代奴隷制リスクへの対応
2023年、Samsungと同社のTier1~3のサプライヤー全体にわたる現代奴隷制のリスクマネジメントに関する複数回の対話を行いました。同社が重要鉱物の調達において、サプライチェーンから奴隷制を排除するために行動していることは特記すべきことだと考えます。また、同社は「競合企業による価格競争やコスト競争を奨励しない」、「労働管理を軽視するサプライヤーからの重要鉱物の調達を奨励しない」といった、重要鉱物の倫理的な調達を業界慣行にすべく、同業他社と協力して活動しています。MFSは、現代奴隷制に当たる事例が発生した場合の対応策の策定と整備について対話を行いました。また、同社がレスポンシブル・ビジネス・アライアンス(RBA)のメンバーであり、RBAと共同で監査を実施しているとの説明を受けました。
その後、MFSはSamsungとサプライチェーン慣行に関してエンゲージメントを行いました。EUなどではサプライチェーン規制が強化され、企業に対してサプライヤーが現代奴隷法に違反していないことの証明を求める圧力が高まっています。注目を集めているこのテーマについて、同社がよりオープンな姿勢となったことで、非常に建設的な対話ができました。
特に、多くの労働力が必要で、サプライチェーンがグローバル化し複雑になっている携帯電話事業が議論の中心となりました。ここ数年、同社はより優れたリスク監視手法を開発しているものの、同社の現代奴隷制に関する方針の遵守を契約書に記載するにあたり、どのように上流サプライヤーにインセンティブを与えるかが課題となっています。同社は広範囲にわたって労務監査を行っているものの、自社で監査を実施する場合は過去の問題に重点が置かれる傾向があることから、新たに出現するサプライチェーンの労働リスクに対処するのは難しい可能性があるとみています。
また、同社は、ニッケルやコバルトといった重要鉱物の調達においても、サプライチェーンの労働リスクにさらされています。そうした中、同社はコンフリクト・フリー(紛争鉱物不使用)な鉱物調達における業界のベストプラクティスの確立を目指す「責任ある鉱物イニシアチブ(Responsible Minerals Initiative、RMI)」に委員会メンバーとして参加しています。これは、同社がこうした問題の重要性を財務面と事業の面の両方から捉えているという、前向きな姿勢を示すものとみています。MFSは、同社と共にこのテーマについてさらに詳細な調査をしていく方針です。
また、サプライヤーの監視を目的としたリスク管理に関する情報開示もこの1年間で大幅に改善しました。また、経営陣が投資家との対話にオープンであることも、ポジティブな要素として特記すべきことだと考えます。
今後のエンゲージメントでは、サプライチェーンの労務デューデリジェンスの実施方法についての理解、コンプライアンス違反を行ったサプライヤーの是正、売買契約の内容、現代奴隷制に関する特定の条項といった分野に重点を置く予定です。
ニュージーランドの準政府機関
2023年、準政府機関であるNew Zealand Local Government Funding Agency(NZLGFA:ニュージーランド地方自治体資金調達機関)とエンゲージメントを行いました。気候変動およびそれ以外を含む環境問題を中心に、バランスシートの負債部分についても協議しました。全体的として適切な政策が採られており、特に、ニュージーランドの地方政府セクターにおいてベストプラクティスの共有が加速しているとの印象を受けました。
NZLGFAは地方政府の資金調達に特化しており、地方当局および公営企業の資金調達の効率向上を主たる目的とし、地方自治体に代わり、より有利な条件で資金調達を行うために設立された機関です。借入金の使途については何ら規制しないものの、環境や気候変動への取り組み強化に向けて参画する自治体との連携を強めています。
サステナビリティ責任者の配置とサステナビリティ委員会の設立(2021年)、カーボンオフセットによるゼロカーボン認証の取得、マテリアリティマップの作成と更新、Green, Social and Sustainable (GSS) ローンやClimate Action Loans (CALs)などの新たな融資商品を設定するなど、コミットメントを強化しています。また、2023年前半には様々なサステナビリティ関連の方針書やフレームワークを公表しました。
Suncorに関する定期的なポートフォリオ・レビュー
2023年のポートフォリオ・レビューで注目に値する成果の1つとして、Suncorに関する議論が挙げられます。オイルサンドに関するエネルギー会議でMFSのESGアナリストと担当アナリストがプレゼンテーションを行いました。このプレゼンテーションは、オイルサンド企業の保有と気候の観点から見た潜在的な影響に関してより高度な議論を促進することを目的として行われました。
2023年にMFSとSuncorは複数回のエンゲージメントを行いました。Suncorは、カナダのオイルサンド企業上位6社が加盟する Pathways Alliance (PA)のメンバーです。PAは、各社が協働してイノベーションとテクノロジーを推進し、オイルサンドの開発に伴う環境への影響の低減に取り組んでいます。
PAの基礎となるプロジェクトは、オイルサンド事業における二酸化炭素排出量削減計画である「Carbon Capture and Storage(CCS)」です。CCSは、二酸化炭素を施設から排出される前に回収し、安全な場所に輸送し、地中深くに安全かつ永久的に保管するというものです。同社とのエンゲージメントでは、Pathways CCSプロジェクトの進捗状況の調査に重点を置きました。このプロジェクトは着実に進んでおり、2030年のフェーズ1達成を目指している状況です。同社はPAのフェーズ1の費用の試算を継続的に行っていますが、現段階では追加の詳細事項は明らかにされていません。MFSはイニシアチブの透明性が低いことについて懸念を表明しました。報告書には活動内容、進捗状況、推定コストを盛り込むべきであると伝え、報告書の改善を促しました。同時に、事業活動による排出量についてのより明確な目標を定めるよう同社に促しました。
オイルサンドはSuncorの事業における重要な構成要素であるため、Pathways CCSプロジェクトの取り組みを理解することは、同社の資本支出に重大な影響を及ぼす可能性があると考えています。また、これにより、カナダのオイルサンド企業を保有することについてさらなる議論が行われました。過去20年間、カナダのオイルサンド企業はサプライチェーンの上流における排出量を大幅に削減しており、これはオイルサンド企業が適切な方向に進歩していることを示しています。現状では、これらの産業が地域経済の重要な柱であることから、MFSではカナダがオイルサンド企業の脱炭素化目標を支援するものと考えています。また、これらの企業によるプロジェクトへの取り組み意欲が低下する可能性も鑑み、この業界を引き続き注視していきます。
MFSにおいてサステナビリティへの取り組みがどのように実践されているかについて詳しくは、MFSのウェブサイト(mfs.com/sustainability)をご覧いただくか、MFSの担当者にご連絡ください。
MFSは、発行体との対話において、投資判断やファンダメンタルズ分析、エンゲージメントに環境、社会、ガバナンス(ESG)要因を組み入れる場合があります。当レポートでの記述や例は、MFSが一部の発行体の分析または発行体との対話において、ESG要因を組み込んだケースを例示したものですが、すべてまたは個別の状況における投資またはESG行動、エンゲージメントにおいて成果をもたらされることを保証するものではありません。エンゲージメントは通常、継続的かつ長期的な一連のコミュニケーションで構成されますが、これらのエンゲージメントが必ずしも発行体のESG関連の取り組みに変化をもたらすとは限りません。発行体の状況は様々な要因に基づいており、当レポートで示されているような投資やエンゲージメントの成果は、MFSの分析や活動とは無関係である可能性があります。MFSがESG要因を投資判断や投資分析、エンゲージメントにどの程度組み入れるかは、戦略、商品、資産クラスによって異なり、また、時間の経過とともに変化する可能性があり、通常、特定のESG要因の関連性と重要性に関するMFSの見解(投資家を含む第三者の判断や意見とは異なる場合があります)に基づいて決定されます。当レポートで示されている例は、いかなるポートフォリオの運用に用いられるESG要因をも代表するものではありません。MFSによるESG評価やESG要因の組み入れは、第三者(投資先企業やESGデータベンダーを含む)から入手したデータに依拠する場合があります。これらのデータは、不正確、不完全、一貫性がない、最新でない、または推定値である可能性があり、投資先やそのバリューチェーン全体のサステナビリティに関する特性や行動ではなく、特定のESG側面のみを考慮している可能性があるため、投資に関連するESG要因に関するMFSの分析に悪影響を及ぼす可能性があります。当レポートで示されている見解および個別銘柄を含む情報は、投資助言、銘柄推奨あるいはその他MFSのいずれかの運用商品のトレーディング意図を表明するものとして依拠すべきでありません。アクティブ運用を行っているため、当レポートに記載されている企業は、当レポートが発行された時点でMFSのポートフォリオで保有されていない可能性があることをご承知おきください。
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